2014年12月31日水曜日

Theatre Essay 観劇雑感 2014年、演劇この2本(+α)


2014年ももうわずか。以前にも(2012年)こんな大晦日があった気がするが、このまま書き留め忘れて年を越すわけにはいかない「2014年、演劇この2本」(と+α)を記しておきたい。 

『海をゆく者』(12月、パルコ劇場) 

『海をゆく者』撮影:阿部章仁 写真提供:パルコ劇場
 今年最も見ごたえがあった演劇といえば、パルコ劇場の『海をゆく者』(コナー・マクファーソン作、栗山民也・演出)。クリスマス・イブの日、ダブリン郊外のとある住宅で集まったダメおやじたちがポーカーを始めるが、実はそれは、暗い過去を持つ主人公シャーキーと「紳士」を装った悪魔の、魂を賭けたゲームでもあった…。 

現代劇にアイルランド民話を織り込んだ戯曲は伏線の張り巡らせ方が緻密で、スリリングなゲームから絶体絶命の状況、そしてどんでん返しまで、観客を心地よくジェットコースターに乗せてゆく。またゲーム直前、ゲーム中に、紳士の正体を知らない他のメンバーたちが呑気に動き回るなか、シャーキーと悪魔が舞台両端に位置し、にらみ合う構図が終始流れてゆく芝居のアクセントとなり、印象深い。 
『海をゆく者』撮影:阿部章仁 写真提供:パルコ劇場
が、第一の見どころは何と言っても出演者、平田満(シャーキー)、吉田鋼太郎(リチャード)、浅野和之(アイヴァン)、大谷亮介(ニッキー)、小日向文世(ミスター・ロックハート=悪魔)の円熟の演技だ。よく喋る、それも勢いよく丸みのあるダブリン訛りで喋るダメおやじたちの雰囲気を、日本語においても違和感なく醸し出しつつ、緊迫と笑いが目まぐるしく入れ替わる芝居をテンポよく展開。特にシャーキーの盲目の兄で、終始がなりっぱなしのリチャードを驚異的な強い喉で演じる吉田が圧巻だ。“ダメ男”もここまで来ればすがすがしく(?)も見えてしまうが、その彼が、弟への愛情溢れる台詞を次々と繰り出す終盤は感動的。09年の初演時から5年、さらにこなれた芝居で観客を引き込む彼らを観ていると、純粋に「役者」というものが魅力的な仕事に見えてくる。 

悪魔と人間との“賭け”は思いがけない形で終わり、芝居はじんわりとした“生”の実感とともに終わる。クリスマスの朝、舞台に差し込む白い光。実際のところ、冬のアイルランドはそう眩くはならないけれど、それは舞台上で一人、それを見つめる登場人物、そして観客の心に見える“希望”でもある。“芝居ならではの演出”が、いい。
151月に金沢、豊橋、大阪、仙台、広島、福岡を巡演。)

 

『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで』(9月、パルコ劇場) 

俳優たちにインタビューしていると、ほぼ皆さん口をそろえて「コメディは難しい」という。「コメディに比べたら、悲劇のほうがずっと楽」とも。実際、コメディを観ていて「なるほど」と感じてしまう残念な舞台もないわけではないけれど、そんななかで久々に「巧い!」と思わせてくれたのがこの舞台。重要なスピーチの直前に突然昔の恋人と、彼女との間に出来たという息子に訪ねてこられたエリート医師の顛末を描く、レイ・クーニーの戯曲だ。 

日本では今回が3つ目のプロダクションとなるが、筆者の中では今回がベストかも?と思えたほど、テンポ、「間合い」が絶妙。場を取り繕うために次々と嘘をつき、さらに窮地にはまってゆく主人公役・錦織一清が、軽やかに繰り出す台詞と嫌みのない強引さで芝居をリードすれば、周囲の役者たちもそれに呼応し、体を張ったギャグをタイミングよく差し挟む。特に初演から“ヘンな患者”役を演じている綾田俊樹は、まるでナンセンス漫画のように何度も車椅子ごと飛ばされるキャラクターを飄々と怪演。主人公の妻役、瀬戸カトリーヌもミドル・クラス特有のとっぽい感じと意外なしたたかさを、ほどよく見せている。“悲哀漂う中年サラリーマン”を演じたら当代一の役者(と筆者が思っている)ラッパ屋の俵木藤汰は、今回は威厳のある医師の上司役で、舞台にそこはかとないおかしさを加味。 

大騒動の果てに、意外なおまけを生みながらも、芝居は収まるべきところへとおさまってゆく。思い切り賑やかな騒動から美しい収束までを、隙なくまとめあげた演出は山田和也によるもの。最近はミュージカル・コメディ『ファースト・デート』でもともすると平板に見えてしまうストーリーを軽妙に立体化させていたが、今やこの人、最も“信頼できる”コメディの演出家と言えるかもしれない。
 
***** 

他にも…
 
とある殺人事件をきっかけに、現代と縄文時代がリンクしてゆくカムカム・ミニキーナのG海峡』(11月、座・高円寺)は、文明批判を絡めたダイナミックな物語。身体表現を多用した意欲的なステージングと、武田航平、夕輝壽太ら若手の客演俳優をはじめ、役者たちの気迫漲る演技に引き込まれる。 

不可解な殺人の取り調べの模様を描くBeing at home with Claude クロードと一緒に』(5月、青山円形劇場)では、長い長い告白を魂をむき出しにして語る男娼役、稲葉友が鮮烈。その激情を受け止める刑事役、伊達暁もいぶし銀の存在感を見せていた。(154月にシアタートラムにて再演予定)。 

もう一つ、ワークショップ的な側面も持つ舞台として興味深かったのが『渋谷金王丸伝説~カブキ国への誘い』8月、渋谷区文化総合センター大和田)。市川染五郎の演出で、金王丸(染五郎)と(フジテレビKIDSが共催のため)ガチャピン、ムックら仲間たちの修業の旅に、クイズやミニ知識、盆踊りコーナーなどを盛り込み、親子連れを中心とした初心者を歌舞伎の世界にいざなった。染五郎や猿弥らのおおらかな芝居や舞踊家の尾上菊之丞、尾上京らの美しい所作が楽しめるだけでなく、音楽、ヴィジュアルともにポップな現代風アレンジを施し、ストーリーにはオンラインゲーム風の設定も登場。歌舞伎本来の「傾(かぶ)いた」スピリットを感じさせた。舞台鑑賞後に別の階でできる「伝統芸能体験」には義太夫、太鼓などがあり、親子で「日本舞踊体験」に参加したところ、一人ずつ帯を締めてもらいお辞儀の仕方から歩き方、着物の各部の名称、扇子の持ち方、そして簡単な踊りまで30分ほど、みっちり伝授。伝統芸能関係者たちの“伝承”への熱意も痛いほどに伝わってきた。


さて、15年はどんな舞台と出会えるだろうか。

2014年10月28日火曜日

Today's Report FILM 「“科学”を入口に“人間”を深く考察する東京国際映画祭コンペ参加作『1001グラム』」


1001 Grams/ Ane Dahl Torp BulBul Film/ Pandora Filmproduktions/ Slot Machine Photographer John Christian Rosenlund (C)

24日の審査員記者会見でバングラデシュ・プレスの記者も引用していたが、今年のコンペ部門選出作品の共通テーマは「追い詰められた人々」なのだそうだ。ノルウェーを代表する監督ベント・ハーメルによる本作はしかし、およそそういう空気とは無縁にスタートする。ヒロインのマリエは国立測量研究所に勤務し、日々様々な測量研究や検査を淡々と行っている。その均一な足取りやまっすぐな立ち姿からは、彼女の規則正しい生活や研究員としての優秀さがうかがえるが、どうやら彼女は離婚直後であるらしい。寡黙な人物設定に加えて映画としても説明台詞をそぎ落とした作りのため、彼女の心のうちは語られないが、研究所や一人で住む一軒家の大きさは、画面に冷え冷えとした寂寞感を与えている。

そんな折、やはり研究者である父が倒れ、マリエは彼の代わりにパリでの標準器会議に出席することになる。1000グラム、つまり1キロの重さを示す「原器」は世界各国で一器ずつ保管されていて、この会議の折にパリで検査を受けるのだという。ガラスを含め何重にもなった厳重なケースに入れられた1000グラムの原器を持って、マリエはパリへと向かう。会議では1879年に定義された「キログラム」の新定義を巡る発表があったり、20年ぶりに金庫から出された昔の原器を皆で注意深く見学したりと、多くの観客にとって“知られざる”ものであろう世界が描かれる。

このまま映画は科学世界に光を当てて行くのかと思いきや、突然小さな事件が起こる。帰国したマリエが前夫を見かけて動転し、深夜に車を走らせて事故を起こしてしまうのだ。大破した車からはあろうことかノルウェー国の「原器」が放り出され、もちろん、ケースの中のガラスカバーは割れている。どうしたものか…。無口なままのマリエだが、その目の下のクマからは焦燥がありありと見て取れる。ケースの修理のため、何はともあれ再びパリに飛ぶマリエ。その日はあいにくの休日で研究所は閉まっていたが、「捨てる神あれば拾う神あり」。いくつかの偶然を経て彼女はささやかな幸せを得ることになる……。

科学(物理学)の世界を描いた本作には多くの数字や無機質な空間が多出するが、生前の父が発する台詞やラストの数分間の会話を聞けば、測量も実は人間の「主観」から生まれたものであり、映画自体、科学を入口として「人間」を考察する試みであることがわかる。人は様々に生きているようでいて、同じように孤独を噛みしめ、誰かと心を通わせることで希望を得てゆく。そんな普遍的な「人間」の姿を静かに、そして最後にちょっとしたユーモアを交えて描いてみせる本作。実に巧い作りだし、堂々としながらも寂しさを湛えたヒロイン役アーネ・ダールトルフ、登場の度にどんどんいい男に見えてくるフランスの元研究員役ロラン・ストッケルの演技にも引き付けられる。30日にもTOHOシネマズ日本橋会場で上映の予定だ。

2014年10月26日日曜日

Today's Report FILM「名シェフの味」を1000円以下で。東京国際映画祭のキッチン・カー「東京映画食堂」



金坂真次のキッチンカー。Photograph:Marino Matsushima

イベントにおける「食」の質とヴァラエティは、そのイベント自体の満足度にも直結するポイントだ。東京国際映画祭のメイン会場である六本木ヒルズはもともと多くの飲食店を擁し、選択肢には事欠かなかったが、今年はさらにスペシャルな企画が登場。日本を代表する5人の有名シェフによる、期間限定(10月24日~31日)のキッチン・カー「東京映画食堂」である。

1階のヒルズアリーナを取り囲むように並ぶのは、和食の金坂真次(鮨かねさか)、松久信幸(
NOBU TOKYO)、中華の脇屋友詞(Wakiya-笑美茶樓)、イタリアンの片岡護(リストランテ アルポルト)、そしてフレンチの須賀洋介のキッチン・カー。それぞれ3~4品を準備し、売り切れ次第終了する。メニューはいずれも1000円以下と手ごろで、今まで彼らの料理に触れたことが無くとも気軽に“トライ”できるのが魅力だ。
24日昼に行ってみると、平日ということもあってかまだ長蛇の列というわけではないが、片岡ら、雑誌等で見慣れた顔が車の内外で笑顔で応対。片岡のキノコ入りボロネーゼのキタッラ(パスタ)850円と、松久の松茸ご飯最中(500円)を買ってみた。ゆで時間5分強を待って車の窓から受け取ったパスタはキノコのうまみがボロネーゼソースに行き渡り、讃岐うどんのような腰のあるキタッラにほどよく絡む。コンビニの肉まんのように小さな白い紙袋に包まれて出てきた最中は、NOBUと焼印が押されたスペシャル仕様。最中とご飯のマリアージュはなかなか思いつかない発想だが、よくありがちな、舌にはりつくような最中ではなく、ぷりっと噛みごたえのある最中の中にややねっとりとしたご飯が入っていて、面白い食感が楽しめる。

キノコ入りボロネーゼのキタッラと松茸ご飯最中 Photograph:Marino Matsushima
両者とも量はかなり少な目で、パスタは通常の外食パスタの8割程度の量。最中のほうは女性の手のひらにすっぽりおさまってしまう大きさだ。おそらく、1000円以内という「手ごろな価格」を優先した結果のサイズなのだろう。日本を代表するシェフたちの味を一度に、それも気軽に楽しめる機会はそうそうあるものではないので、ここはお味見と割り切って、なるべく多くのメニューを買って家族や友人でシェアするのはいかがだろう。

2014年10月25日土曜日

Today's Report FILM 「キーワードは“希望”。東京国際映画祭コンペティション部門審査員記者会見レポート」(2014.10.24)




左から品川ヒロシ、デビー・マクウィリアムズ、エリック・クー、ジェームズ・ガン、ロバート・ルケティック、イ・ジェハン (C)Marino Matsushima
昨日から始まった第27回東京国際映画祭だが、今回のコンペ部門審査員は若手が目立つ。若い感性を持った彼らはいったいどんな視点で映画を「審査」しようとしているのだろう。二日目となる2411時からの審査員記者会見に出かけてみた。

スクリーン前に並んだ椅子に腰かけたのは、審査委員長のジェームズ・ガン(『スクービー・ドゥー』脚本、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』監督)と、ロバート・ルケティック(『キューティー・ブロンド』監督)、イ・ジェハン(『私の頭の中の消しゴム』監督)、エリック・クー(『私のマジック』監督)、デビー・マクウィリアムズ(『007シリーズ』キャスティング・ディレクター)、そして品川ヒロシ(芸人、『漫才ギャング』監督)の6人。カジュアルな空気の中、それぞれに挨拶をしたのち、質疑応答が行われた。

ジェームズ・ガン審査委員長「おはようございます。まだ1日半しか東京に滞在していませんが、ここでの時間を満喫しています。これまでも他の映画祭で審査員グループと仕事をしたことがありますが、今回のメンバーはとても仲間意識が強く、フィーリングもぴったり。一緒に審査するのがとても楽しみです」

イ・ジェハン「今回、映画祭審査員に選ばれて大好きな日本にまた来れたことが非常にうれしいです。ここで映画の仕事をしたこともあり、東京は自分にとって大事な都市。今回のメンバーは和気あいあいのムードで、これから彼らと審査ができることが非常に楽しみです」

ロバート・ルケティック「プレスの方々にようこそと申し上げます。なぜなら、プレスの方々が外に真のメッセージを伝えて下さることで、この映画祭が本当に国際的なフェスティバルになるからです。来日は二回目だが日本は大好きな国です。この映画祭はその大好きな日本を象徴するものだと思います。これからの審査が楽しみです」

エリック・クー「日本は私にとって特別な国です。1997年の私の2本目の作品以降、私の作品を上映してくださっているからです。また、私はずっと日本の漫画に魅了されており、『TATSUMIマンガに革命を起こした男』も公開予定なのでそれも楽しみ。招いてくださって感謝しております」

デビー・マクウィリアムズ「今回が来日2回目となります。ハンサムな監督たちに囲まれてとてもエキサイトしています(笑)。紅一点なので、自分の声を大きくし、意見をしっかり言わせてもらおうと思っています。世界各国から映画が届いている映画祭は、旅をする場でもあります。私たち審査員の責任は重大だと認識しながらみんなでいい仕事をしたいと思っています」

品川ヒロシ「品川です。みなさんお忙しい中有難うございます。東京国際映画祭は以前からすごい国際映画祭と思っていたけど、実際に昨日から参加してみて、パーティーからレッドカーペットから本当にテンションがあがっています。最初に審査員のお話をいただいたとき、普段芸人をやっているので「また文化人ぶりやがって」と仲間に言われるなあ、どうしようかと思いましたが、すごい皆さんとご一緒できることがわかり、揶揄されてもいいやと思って引き受けました。これからこのメンバーで話し合っていくのが楽しみです」

〈質疑応答〉

(バングラデシュ・プレスより)――プログラミングディレクターの矢田部氏は、「瀬戸際に立つ人たち、経済的、政治的な問題でどこにもいけないような状態にいる人たちがどのような人生をたどっていくかを考えるうえで、映画祭の意味がある」ということをおっしゃっていましたが、今回審査員の皆さんはどんな視点でどう審査してゆくのですか?

ロバート「今、人間が置かれている立場は世界どこでも危機的だと思う。政治、経済、個人的問題であろうとみんなある意味崖っぷちだ。その中で、映画はメッセージとして大きな希望をもたらしてくれると思う。今の世の中で、何らかの形で心を打つ、希望を持たせるというテーマはとても大事ではないかと思っています」

エリック「たぶん他のメンバーもそうだろうが、シンプルなフォームでありながら心に直接的に語ってくる、感性に訴えてくるような作品を自分は探している。これは主観的なことだが、今回のメンバーはみんなフィーリングが似ていると思う。エモーショナルな作品を求めています」

品川「僕はこの中で一番キャリアが浅いのでお客さんに感覚が近いし、映画はお客さんのものだと思うので、なるべくお客さんの気持ちで観て面白いと思ったものに意見を言って、音がとか光がというのはそのあとの話。なるべくちらしとか資料を見ないで映画を観て、皆さんと話し合って決めていきたいなと思っています」

イ・ジェハン「僕はあまり考えないようにしている()。監督は自分の世界に閉じこもる仕事だけど、今回は他の人々が作った世界をフィーリングを持って観たい。今の会見の後に最初の作品を観ることになっていて、それが楽しみ。もう一つ言うと、自分的には監督業とは違う個人の立場で、今まで見たことないような作品に心を打たれたいと思っています」

デビー「通常、私たちは“これは自分の好みだろう”と思われる映画を観に行くわけだが、今回に関しては何を観るか全然知りません。ある意味チャレンジだと思う。既成概念を変えてくれる、あるいは自分が経験したことないような経験をさせてくれる映画かもしれない。このコンペ部門では皆さんご存知の通り1000本以上の応募から15本が選ばれているわけだが、今回は何の広告もなしに自分のイノセントな気持ちで見せられる。それが自分の心を揺さぶるかもしれない、何か新しいことを教えてくれるかもしれない。人間は居心地のいいところにいたいものだが、もしかしたら今回の15本によって全然違う場所を見ることができるかもしれない。そういう意味で楽しみにしています」

ジェームズ「とてもシンプルです。自分が観た中で一番好きなもの。自分が知らなかった世界に飛び込み、新しい発見ができる。自分をより理解できる。一緒に行った人をより理解できるようになるというのが映画の良さだと思う。すべてを忘れて違う世界に連れてってくれる映画が好き。みんな違う答えをもっているけど最終的には同じところに落ち着くのではないかと思っています」

(フリーランスジャーナリスト)――ジェームスさん、今回なぜ審査委員長を引き受けたのですか?日本の文化に興味があったのでしょうか? 

ジェームズ「確かに僕は日本の文化、映画に興味を持っています。これまで来日経験がなかったところに話が来て“なんというチャンスだ、招待されて9日間も過ごすことができる”と思ったよ。今朝ショックだったのが、昨日歩いたレッドカーペットに、ウルトラマンが来ていたことを知ったこと。4~5歳のころ大好きだったんだ。(品川が「僕、ウルトラマンと一緒に写真撮ったことありますよ」と差し挟んで「お前なんか嫌いだ!(笑)」と言い返す一幕。)映画的には、黒澤が一番大きな影響を受けた日本人監督だ。小津ももちろんそう。三池もだ」

(C)Marino Matsushima
(ジャーナリスト)――他の皆さんが影響を受けた映画、監督は?

ロバート「もちろん黒澤。また僕が10代のころ、故郷のオーストラリア80年代は映画ルネッサンスでピーター・ウィアー、ジリアン・アームストロングらが活躍していた。イタリアのフェリーニ、ヤングアダルトの頃はスコセージらにもインスピレーションを得ました」

イ・ジェハン「それらに追加すると(笑)、大島渚。デヴィッド・リーン。セルジオ・レオーニ、昨夜彼の話をしたよね(とメンバーたちに)。トニー&リドリー・スコット。アラン・パーカー、エイドリアン・ラインなんかはライティングやスモークを教えてくれた。アントニオーニ、ミケランジェロ。クリストフ・キシェロフスキー、アイゼンスタイン。アニメの押井守…」

ジェームズ「1時間では終わりませんよ、一晩以上かかります」

ロバート「昨日も皆で好きな監督トップ10はと話していて、トップ20,トップ100になったもの(笑)」

エリック「簡潔に言います(笑)。アキ・カウリスマキ。日本では塚本晋也」

デビー「常に私を驚かせるのはポランスキー。毎回違う映画を見せてくれます。スウェーデンやデンマーク映画も、一夜にして映画の撮り方を変えたと思う。低予算であれだけのものを作った。4歳の時に初めて観た「わんわん物語」も忘れられません(笑)」

品川「一番影響を受けたのは深作欣二さん。何百回と観ています。あと、僕は18歳の時に監督か芸人になりたいと思ったんですが、その頃北野武さんが芸人で成功して映画を撮ったので、じゃあ芸人になろうと決めました。監督から芸人になった人はいなかったので(笑)。すごく影響を受けています」

そして審査委員長としてジェームズが「締め」のスピーチ。

ジェームズ「今、さきほど言及しなかった監督の名前で頭がいっぱいになっています()。こういう性格の人間は審査員に向いてないかもしれませんね。それはさておき、僕らが今回求めているのは“希望”です。作品がどう自分を揺さぶるか、期待しています。プレスの皆さんにも大きな使命があると思います。皆さんがあってこそ映画祭のメッセージが広められていくからです。映画はお金がかかるものなので、最終的には興行成績が成功の尺度になるけれど、世界各地の映画祭という“ポケット”でメッセージを送ることもまた大切。そこにはプレスの皆さんの力が不可欠です。応援よろしくお願いします」

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ハイテンションで声の大きいジェームズと物静かに語るイ・ジェハンの「真逆」なまでのキャラクターが観ていて面白かったが、メンバー全員に共通していたのが、映画への真の「情熱」。彼らは繰り返し「希望」という言葉を口にしていたが、確かにこの混沌とした世界において、娯楽の形を借りてメッセージを送ることのできる映画は、ますますその内容を問われていると言える。このメンバーでどういう論議がなされてゆくのか。最終日の彼らの審査結果も楽しみになってきた。