2016年10月8日土曜日

Today's Report [Art] 二人の画家の絆を辿る、ストーリー性豊かな展覧会「ゴッホとゴーギャン展」(東京都美術館)プレスプレビュー



ゴッホとゴーギャン展』10月8日~12月18日=東京都美術館、17年1月3日~3月20日=愛知県美術館
 (C)Marino Matsushima
上野の森美術館でスタートした「デトロイト美術館展」でも“目玉”の一つとなっているゴッホ。同じ上野公園内の東京都美術館で、一日遅れてスタートする「ゴッホとゴーギャン展」では、彼と6歳年下の友人、ゴーギャンが主人公だ。全く異なる環境で育ちながら互いに画家として認め合い、2か月ほどの共同生活後も終生、文通を続けた二人。彼らの友情が、文字ではなく彼ら自身の絵画作品によって物語られる展覧会となっている。

1853年、オランダの牧師の家庭に育ったゴッホは27歳で画家となり、6年後の第8回印象派展で初めてゴーギャンの作品を見たと言われる。彼の作品に詩情を見出したゴッホは翌年、ロートレックらと開いた展覧会で実際にゴーギャンと会い、さっそく作品を交換。その翌年、画家たちの共同体を作るべくアルルに移住し、ゴーギャンを迎える。しかし気質も絵画の方向性もあまりにも異なる二人はたちまち衝突、わずか2か月で共同生活は破綻。ゴッホは精神を病み、左の耳を切り落としてしまう。

ゴーギャンはアルルを去るが、二人は文通の中で芸術論を交わし続けた。しかし2年後にゴッホは自らの頭をピストルで撃ち、死去。ゴーギャンは南国に移住し1903年、53歳で病没したという。

ゴッホ晩年の作品より、ゴーギャンが自身の作品との交換を申し込んだほど気に入っていたという『渓谷(レ・ペイルレ)』1889年12月、油彩、カンヴァス、クレラー=ミュラー美術館、ミレーの版画を油彩で模写した『種まく人(ミレーによる)』1890年1月、油彩、カンヴァス、クレラー=ミュラー美術館
(C)Marino Matsushima
展示は二人の創作と交流の軌跡を5章に分け、紹介。それぞれの静物画を並べ、同じようなモチーフでもゴッホは現実を、ゴーギャンはイマジネーションを重視して描き、視点も画風も全く異なっていることを際立たせるなど、分かりやすい展示となっている。またアナウンサーの解説にファン・ゴッホ(小野大輔)、ゴーギャン(杉田智和)のモノローグが加わった音声ガイドは臨場感たっぷりで、まるで彼らとともに場内を巡っているかのような気分に。

これだけ画風が異なれば、別々の道を歩むのは必然だっただろうと思われるも、最も根本的な絵画に対する真剣さにおいては、互いに認め合っていた二人。その絆は、展覧会の最後に掲げられた、ゴーギャンによる一枚の絵に集約されている。自分に見立てた“ある物”が、ゴッホに見立てた“ある物”を抱く姿。この象徴の意味を知った時、鑑賞者は二人の友情、そしてこの作品で締めくくられた本展の構成に胸打たれずにはいられないだろう。



ミュージアムショップでは関連グッズが各種販売。こちらの「龍角散ポーチ(飴2個付き)1458円」や一心堂本舗の「ゴッホフェイスパック540円」(←パックをしている間はゴッホの顔になれる)等のユーモア商品(?)も。

2016年10月7日金曜日

Today's Report [Art] 危機を乗り越えた米国屈指のコレクション「デトロイト美術館展」プレス・プレビュー



 1885年に創立、ゴッホやマティスの作品をアメリカの公立美術館として初めて購入するなど、全米屈指のコレクションで知られながら、2013年には破たんした市財政救済のため、コレクション売却の危機に瀕したデトロイト美術館。その後国内外の協力により、一点も売却せずに済んだ美術館のコレクションの中から、選りすぐりの52点が来日、明日、展覧会がスタートする。

来日したのはコレクションの中核をなす作品群とのことで、「印象派」「ポスト印象派」「ドイツ近代絵画」「20世紀フランス絵画」の4室に分類。それぞれに点数を絞り、「印象派」室では伝統的な技法の作品も展示して印象派との比較をうながすなど、初心者やファミリーにも分かりやすく、見やすい展示となっている。

作品はどれも十分な間隔をもって展示されているが、特に大きなスペースを与えられているのが「ポスト印象派」内のゴッホの「自画像」。薄闇の空間にやんわりとしたスポットライトを浴びて掲げられたその像の肩には、ゴッホが筆ではなく指でなぞった跡が何本も見て取れる。(とりわけこの画家の作品の場合、実物における筆跡、“指跡”の立体感に驚かされることが多い)。先日上演されたミュージカル『ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ』でも主人公(橋本さとし)キャンバスを指でなぞっていたが、その実物が目の前に現れるのだ。隣には、ヴィンセントがその自死の数週間前に、パリ市民の憩いの場を、憩いからは程遠いタッチと色彩で描いた「オワーズ川の岸辺、オーヴェールにて」が掲げられ、舞台で橋本が演じたヴィンセントの、苦悩を突き抜けた境地がまざまざと思いだされる。

今回の展覧会では、現地のルールを踏襲し、なんと全作品が写真撮影可能だという。(月・火曜日のみ。一部はSNS等、不特定多数への公開が禁止)。来場者にとっては思い出が手軽に記録でき、美術館としてはSNS を通じた無料の広告活動ができるといったところか。また、自らもアート好きだという鈴木京香による音声ガイドも魅力的だ。ゆったりとしたテンポで抑揚、鼻濁音も美しく聴かせ、固有名詞や専門用語もすっと頭に入ってくる。ボーナストラックとして、美術館がコレクション売却の危機を乗り越えた経緯を描いた『デトロイト美術館の奇跡』の著者、原田マハの解説も収録されている。