2014年ももうわずか。以前にも(2012年)こんな大晦日があった気がするが、このまま書き留め忘れて年を越すわけにはいかない「2014年、演劇この2本」(と+α)を記しておきたい。
『海をゆく者』(12月、パルコ劇場)
『海をゆく者』撮影:阿部章仁 写真提供:パルコ劇場 |
現代劇にアイルランド民話を織り込んだ戯曲は伏線の張り巡らせ方が緻密で、スリリングなゲームから絶体絶命の状況、そしてどんでん返しまで、観客を心地よくジェットコースターに乗せてゆく。またゲーム直前、ゲーム中に、紳士の正体を知らない他のメンバーたちが呑気に動き回るなか、シャーキーと悪魔が舞台両端に位置し、にらみ合う構図が終始流れてゆく芝居のアクセントとなり、印象深い。
『海をゆく者』撮影:阿部章仁 写真提供:パルコ劇場 |
悪魔と人間との“賭け”は思いがけない形で終わり、芝居はじんわりとした“生”の実感とともに終わる。クリスマスの朝、舞台に差し込む白い光。実際のところ、冬のアイルランドはそう眩くはならないけれど、それは舞台上で一人、それを見つめる登場人物、そして観客の心に見える“希望”でもある。“芝居ならではの演出”が、いい。
(15年1月に金沢、豊橋、大阪、仙台、広島、福岡を巡演。)
『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで』(9月、パルコ劇場)
俳優たちにインタビューしていると、ほぼ皆さん口をそろえて「コメディは難しい」という。「コメディに比べたら、悲劇のほうがずっと楽」とも。実際、コメディを観ていて「なるほど」と感じてしまう残念な舞台もないわけではないけれど、そんななかで久々に「巧い!」と思わせてくれたのがこの舞台。重要なスピーチの直前に突然昔の恋人と、彼女との間に出来たという息子に訪ねてこられたエリート医師の顛末を描く、レイ・クーニーの戯曲だ。
日本では今回が3つ目のプロダクションとなるが、筆者の中では今回がベストかも?と思えたほど、テンポ、「間合い」が絶妙。場を取り繕うために次々と嘘をつき、さらに窮地にはまってゆく主人公役・錦織一清が、軽やかに繰り出す台詞と嫌みのない強引さで芝居をリードすれば、周囲の役者たちもそれに呼応し、体を張ったギャグをタイミングよく差し挟む。特に初演から“ヘンな患者”役を演じている綾田俊樹は、まるでナンセンス漫画のように何度も車椅子ごと飛ばされるキャラクターを飄々と怪演。主人公の妻役、瀬戸カトリーヌもミドル・クラス特有のとっぽい感じと意外なしたたかさを、ほどよく見せている。“悲哀漂う中年サラリーマン”を演じたら当代一の役者(と筆者が思っている)ラッパ屋の俵木藤汰は、今回は威厳のある医師の上司役で、舞台にそこはかとないおかしさを加味。
大騒動の果てに、意外なおまけを生みながらも、芝居は収まるべきところへとおさまってゆく。思い切り賑やかな騒動から美しい収束までを、隙なくまとめあげた演出は山田和也によるもの。最近はミュージカル・コメディ『ファースト・デート』でもともすると平板に見えてしまうストーリーを軽妙に立体化させていたが、今やこの人、最も“信頼できる”コメディの演出家と言えるかもしれない。
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他にも…
とある殺人事件をきっかけに、現代と縄文時代がリンクしてゆくカムカム・ミニキーナの『G海峡』(11月、座・高円寺)は、文明批判を絡めたダイナミックな物語。身体表現を多用した意欲的なステージングと、武田航平、夕輝壽太ら若手の客演俳優をはじめ、役者たちの気迫漲る演技に引き込まれる。
不可解な殺人の取り調べの模様を描く『Being at home with Claude クロードと一緒に』(5月、青山円形劇場)では、長い長い告白を魂をむき出しにして語る男娼役、稲葉友が鮮烈。その激情を受け止める刑事役、伊達暁もいぶし銀の存在感を見せていた。(15年4月にシアタートラムにて再演予定)。
もう一つ、ワークショップ的な側面も持つ舞台として興味深かったのが『渋谷金王丸伝説~カブキ国への誘い』(8月、渋谷区文化総合センター大和田)。市川染五郎の演出で、金王丸(染五郎)と(フジテレビKIDSが共催のため)ガチャピン、ムックら仲間たちの修業の旅に、クイズやミニ知識、盆踊りコーナーなどを盛り込み、親子連れを中心とした初心者を歌舞伎の世界にいざなった。染五郎や猿弥らのおおらかな芝居や舞踊家の尾上菊之丞、尾上京らの美しい所作が楽しめるだけでなく、音楽、ヴィジュアルともにポップな現代風アレンジを施し、ストーリーにはオンラインゲーム風の設定も登場。歌舞伎本来の「傾(かぶ)いた」スピリットを感じさせた。舞台鑑賞後に別の階でできる「伝統芸能体験」には義太夫、太鼓などがあり、親子で「日本舞踊体験」に参加したところ、一人ずつ帯を締めてもらいお辞儀の仕方から歩き方、着物の各部の名称、扇子の持ち方、そして簡単な踊りまで30分ほど、みっちり伝授。伝統芸能関係者たちの“伝承”への熱意も痛いほどに伝わってきた。
さて、15年はどんな舞台と出会えるだろうか。
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