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Three Ways House Hotel外観。はちみつ色の典型的なコッツウォルズ・ストーンで建てられている。(C)Marino Matsushima |
英国随一の田園地帯コッツウォルズ北部に位置し、シェイクスピアの故郷ストラットフォード・アポン・エイヴォンからは車で
10分の距離にある小さな村、ミクルトン。いくつかの小さなショップを除けば、あとは築
100年以上のお屋敷ばかりの閑静な村の一角に、
Three Ways Houseはある。コッツウォルズ名物のはちみつ色の石(コッツウォルド・ストーン)の屋敷は一見、こぢんまりとして見えるが、中に入ってみると左に右に、ちょっとした迷路のような作り。実は客室
48室というから、立派な中型ホテルと言える。
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ホテル内に7室あるプディング・ルームの一つ、チョコレートの間。ベッドはチョコレート・ボックスを模した作り。バスルームにはチョコレート素材のシャンプー・コンディショナーが置かれている徹底ぶり。(C)Marino Matsushima |
オーナーのジルとサイモン夫妻が
1995年に開業したこのホテルは、コッツウォルズ有数の観光地の一つヒドコート・マナー・ガーデンから最も近いホテル(徒歩
20分、車で
5分)…でもあるが、一般的にはそれより「
The Pudding Club」
(プディング・クラブ
)の本拠地として有名だ。ホテルの開業より
10年早い
1985年、ジルたちミクルトン村の甘党たちが「英国の伝統デザート、プディング(蒸しケーキ。代表的なレシピは
こちら)の味を守っていこう」との目的でクラブを創設。毎週金曜の夜に集まり、7つのプディングをたいらげ、人気投票を行っている。筆者はだいぶ以前にこのホテルでプディングを取材し、その“激甘”加減に驚いた記憶があるが、今回久々にこのホテルを訪れてみた。
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手描きの絵柄が美しいサマー・プディングの間。(C)Marino Matsushima |
前回はプディングだけの取材だったので客室まで見る機会は無かったが、今回は子連れで宿泊。受付からその迷路のような廊下を通り過ぎ、ホテルに7つあるというプディングをテーマにした客室の一つ、「Summer Pudding」に通された。ペール・ブルーにストロベリーやラズベリーなど、様々なベリーや小鳥、部屋のテーマでもあるサマー・プディングのレシピが手描きされた壁・天井が可愛らしく、乙女心を大いに刺激。鏡台にはハーブティーも含めて様々なティーバッグ、ネスプレッソも用意されていて、この部屋専用の小さなパティオでティータイムが楽しめる。
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ホテル内バーの手書きのメニュー。(C)Marino Matsushima |
この日はコース料理を食べるほど空腹ではなかったので、子連れでも気軽に入れる併設のバーに行ってみた。サンドイッチを注文すると、大皿でサラダとともにきれいに盛り付けられ、付け合わせのチップス(フライド・ポテト)は別のボウルに山盛りになって出てくる。地元の素材を出来るだけ使っているとのことで、味はフレッシュで美味だが、食べきれる量ではなく、残りは持ち帰り用に包んでもらった。
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プディングの盛り合わせ。これで一人分だが、2,3人で取り分けてもいいかもしれない。(C)Marino Matsushima |
しかしここに来てプディングを食べない法はない、ということで一皿、盛り合わせを頼むと、大きな皿にプディングが3切れ。おやつ大好きの子供の目がきらりと光り、どろっとした別添えのクリームをかけていただく。「おいしい~」と一口目は言うものの、珍しく「ママも食べる?」と勧めるわが子。子供にとっても一口で十分満足してしまう甘さだったようだ。もっちりとした食感自体は日本人にも何ら違和感はなく、翌日、オーナーのジルさんに聞いたところ、噂を聞きつけて食べにくる日本人も少なくないのだという。最近はパブなどでも普通のフランス風デザートをだす店が多い中、“伝統の味”を堪能できるこのホテルは貴重な存在だ。
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ミクルトンの聖ローレンス教会。夕食後も夏の英国は散歩が楽しめる明るさ。(C)Marino Matsushima |
夏の英国は日が長く、プディングを食べてもまだ外は明るい。腹ごなしに周辺を歩いてみると、はちみつ色の屋敷が連なる通りに一軒、不動産屋の「売り出し中」の看板が立っていた。築150年は超えているだろう邸宅はしばらく誰も住んでいなかったのか、アンティークな趣というより廃墟寸前の隠微な空気が漂っている。この次、ここを通りかかったらどんな空気に変わっているだろうか。
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客室ドアにも遊び心が。(C)Marino Matsushima |
宿に帰り、ラウンジで一息つく。ここには本やボードゲームなども無造作に置かれていて、ちょっと親戚の家に遊びに来たような雰囲気。スクラブル・ゲームに挑戦し、部屋に戻る。カモミール・ティーを飲んでぐっすりと睡眠。
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自分好みのイングリッシュ・ブレックファーストが作れるセルフサービス式の朝食。(C)Marino Matsushima |
翌朝、レストランに赴くと、シリアルや果物のみならず、ホットミールもセルフサービス。ソーセージ、ベーコン、ハッシュドポテト等を、自分好みの按配でイングリッシュ・ブレックファーストをいただけるという。それぞれにいい味で、丁寧に作られていることがわかる。子供は思わず「こんなにおいしい朝ごはん、たべたことなーい」と歓声をあげている。食後にヨーグルトを選んでいると、スタッフの若いお兄さんが「いちご味が一番だよ」と声をかけてくる。こういう気さくさ、親密さがカントリー・ホテルの良さだ。
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盛り付け後のイングリッシュ・ブレックファースト。(C)Marino Matsushima |
食後にオーナーのジルさんの案内で庭を歩く。樹木の若い果実をしきりにもぎたがり、「Don’t
pick up? Why?」と尋ねる娘に、「It’s too sour.」とすっぱそうな顔を作り、優しく諭すジルさん。なんでもまもなく彼女のお嬢さんが結婚式を挙げることになっており、ちょうどお嬢さんが娘ぐらいの年の頃を思い出していたところだったのだという。ブティックホテルの中には、子連れ客を歓迎しない宿もあるが、ここではそういった心配は無い。「他のお客様たちのご理解がありますから」とジルさんは言うが、それは彼女自身のゆったり、穏やかな人柄によるところも大きそうだ。チェックアウト前に曇天の中もう一度村を散策、パブと保育園、小学校の存在を確認し、静かなミクルトン村を後にした。
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ホテルのオーナー、ジルさん。気さくで優しい彼女のオーラがそのままホテルの心地よさに反映されている。(C)Marino Matsushima |
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