2016年11月20日日曜日

Theatre Essay 観劇雑感 コミカルなサスペンスの向こうに現れる、温かくも切ないファンタジー『扉の向こう側』(2016.11東京芸術劇場プレイハウス)

『扉の向こう側』撮影:岸隆子
ロンドンの五つ星ホテルに呼ばれた娼婦のフィービー(壮一帆)。彼女は年老いた顧客リース(吉原光夫)が書いた告白録を読み、彼の共同経営者ジュリアン(岸祐二)に命を狙われ、夢中で開けたドアから時空を飛び越えてしまう。
『扉の向こう側』撮影:岸隆子
そこで出会ったのは、かつてジュリアンに殺されたリースの第二の妻ルエラ(一路真輝)。状況を理解した彼女は、やはり以前抹殺されたリースの第一の妻ジェシカ(紺野まひる)に危険を告げ、警備員のハロルド(泉見洋平)も巻き込んでフィービーと難を逃れようとするのだが…。
『扉の向こう側』撮影:岸隆子
アラン・エイクボーンが90年代に発表し、日本でも何度か上演されている『Communicating Doors』が、板垣恭一の演出で登場。英国の“ドタバタ喜劇”の味わいをふんだんに盛り込んだサスペンス劇として、壮一帆が端正な容姿から思い切りのいい演技を繰り出し、大いに笑わせるが、 戯曲はそれに終始せず、英国社会を痛烈に風刺したヒューマンドラマに帰結する。現実的には、依然階級社会が厳然たる英国では、本作のような“素敵な出来事”は起こらないだけに、このラストは現地ではほとんど“ファンタジー”として受け止められるだろうが、それでも“来るべき未来のために、人は現在を精一杯、そしてより善く生きなければならない”というメッセージは観る者の国籍を問わず、普遍的に響いてくる。今回は後半のキーパーソンである一路真輝の、この数分間の演技に人間愛が溢れ、美しい幕切れを導き出した。また岸祐二のジュリアン役に、“悪役”としての怖さとともにリースに対する同性愛的な情が漂い、魅力的だ。
『扉の向こう側』撮影:岸隆子
それにしてもミュージカル俳優、宝塚の元スターたちが揃った今回、台詞のみというのは何とも残念…と、おそらくはすべての観客が思うところだろうが、アンコールには“しっかりと”(?!)、歌のプレゼントが。一曲の中に5人の声が重なるパート、それぞれの歌声を聴かせるパートと変化にとんだテーマ曲(音楽・松崎裕佳)で、観客は彼らの歌声の温かな余韻の中で、家路につくことが出来るだろう。

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