2015年2月15日日曜日

Today's Report [travel] 英国きってのファッショナブル・アフタヌーン・ティー「バークレー・ホテル」


バークレー・ホテルのアフタヌーン・ティー。一人45ポンド、税、サービス料別。ドレス・コードは「エレガント・スマート・カジュアル」。(C) Marino Matsushima

英国ではたいがいの高級ホテルでアフタヌーン・ティーを提供しているが、テーブルウェアがモダンかクラシカルか、ティースタンドを使っているか否かといった違いはあっても、内容的にはそれほどの違いはない。

そんななかでひときわ個性的なアフタヌーン・ティーを出しているのが、ロンドンの五つ星ホテル「バークレー」だ。ハロッズやハーヴィー・ニコルズといったデパートもあるファッショナブルな土地柄ゆえか、彼らが提供するのは「プレタ・ポルティー」。ティースタンドに乗るスナックやスイーツは最新ファッションにインスピレーションを受けて作られ、定期的にメニューも更新されてゆくというものだ。

シンプルな外観のバークレー・ホテル(C)Marino Matsushima
ナイツブリッジ大通りを折れてすぐ、クリーム色のシンプルな建物がバークレー。サイズに比してエントランスはこじんまりとし、「表札」もごくごく小さい。うっかりすると見過ごしてしまいそうなたたずまいだが、出入りするドアマンのパリッとした姿と滑らかな動きから、ここが一流のホテルであることがすぐ見て取れる。

久々に(子連れでは初めて)出かけてみると、予約した13時にはすでに7割がたのテーブルが埋まっていた。アフタヌーン・ティーといえば15時というイメージが強いが、ここのティーのボリュームを知っているリピーターが多いのだろうか。昼食を兼ねて早目に訪れるゲストが多いようだ。ほぼ全員が女性客。

4歳児にプレゼントされたアクティビティ・ブックと色鉛筆。(C) Marino Matsushima
席に通されるとすぐさま、女性スタッフがアクティビティ・ブックと色鉛筆を持ってきてくれた。そういえば予約の際、子連れである旨を告げると「お子様にふさわしい準備をいたしますので、年齢と性別を」と尋ねられていたのだ。ブックにはバークレーの写真を盛り込んだクイズやロンドン関連の塗り絵、クイズなどが盛り込まれ、スタッフも楽しんで作ったのかな?と感じられる。この“準備”が功を奏し、4歳の娘はティーを楽しんだ2時間ほどの間、ずっとおとなしく座っていることができた。
ほどよい高さからティーストレイナーを通してお茶を注ぐ。(C) Marino Matsushima
着席するとまずはお茶のセレクト。ハーブティーを含め様々な種類が並ぶが、筆者はアールグレイ、家族はバークレーお勧めブレンドをオーダーしてみる。間もなくウェイターがポットを持って現れ、ティーストレイナーを使って一人一人のカップに注ぎ始めた。銀のストレイナーがカップの上にかすかな音とともに乗せられ、お茶を通した後にまたかすかな音とともに外される流麗な動きを眺める。なんとも贅沢なひとときだ。ほどよい温度のお茶をいただきながら、続いて現れたサンドイッチをまずはいただく。この一皿だけでもかなりのボリュームだ。
プリプリのエビやスモークサーモンが美味なるサンドイッチ。(C) Marino Matsushima
サンドイッチを食べ進めていると、満を持してといったていでティースタンドが運ばれてきた。カラフルでかわいらしいスイーツの乗ったその姿に、娘ならずとも思わず声が出る。一般的なアフタヌーンティーは下段がサンドイッチ、中段がスコーン、上段がケーキだが、ここでは下段が冷製スープやフィンガーフード、中段がケーキ、上段がクッキーとムース。ケーキは取りやすいよう、それぞれ小さく切った厚紙の上にのせてある。おかわり自由なので「かわいすぎて食べるのがもったいない」と躊躇する必要もなく、目に飛び込んだものから取り皿に移してゆく。
左がルブタンのハイヒール・クッキー。(C) Marino Matsushima
ひときわ鮮やかなピンクのフィンガーフードは、口に入れてみればゴートチーズというサプライズ。ミュウミュウのバッグ型チョコは、質感の異なるチョコを両側からペイントした板チョコで挟み込んだ形状で、もちろんハンドルもついている。和菓子の上菓子のような芸の細かさだ。そうこうしているとさきほどのウェイターが透明のスティックとメニューを持って現れ、ティースタンドやメニューを指示しながら解説を始めた。「こちらは14年秋冬コレクションをテーマとしておりまして、こちらのクッキーはクリスチャン・ルブタンの靴を模しており…」。すでに何度となく述べているらしく、てきぱきとした口調。それぞれにこだわりを持って作られたことが伝わり、よりひと品ひと品をゆっくり味わいたくなる。

スナックやスイーツをつまみながらおしゃべりをする間には、ほどよいところで「おかわりはいかが?」とウェイターが聞きにくるので、「1段目と2段目だけお願いします」とリクエスト。最後に余ったクッキーなどいわゆる「かわきもの」はこれまた色鮮やかなグリーンとピンクの紙バッグに入れ、お土産にして持たせてくれた。 
「おみやげ」バッグ。(C) Marino Matsushima
4歳児はかわいらしい形状のスイーツの数々に歓声を上げ、おなかが満たされてからはアクティビティ・ブックに夢中、と大満足のていであったが、和やかでありながらもどこか背筋の伸びるような、五つ星ホテル特有の空気を本能的に感じ取ったようで、大声を上げるでもなく、その場になじんでいた。どうやらお洒落に興味があるらしいので、もう少し大きくなれば、ウェイターさんのファッション解説にも真剣に聞き入るかもしれない。そういう点では、この「プレタ・ポルティー」は“大きな女子”はもちろん、とりわけ“小さな女の子連れ”ファミリーにお勧めできるアフタヌーン・ティーと言える。

2015年2月9日月曜日

Today's Report [travel] 子連れに(も)優しい、英国の美しい宿vol.3 カルコット・マナー

子連れに[も]優しい、英国の美しい宿vol.3 Calcot Manor 
「子どもゲストのもてなし」を徹底した、「全ての客層を満足させる宿」

なだらかな丘陵地をのぞむ裏庭から見たカルコット・マナー (C) Marino Matsushima
コッツウォルズ南部の町テトベリーにほど近いブティック・ホテル、カルコット・マナー(http://www.calcotmanor.co.uk/)。この宿には10年以上前から何度か取材で訪れているが、ながらく「スパの充実した美しいホテル」という印象だった。 

それが一昨年、日経トレンディネットのために「子連れに優しい宿」記事を書く過程で数年ぶりに再訪し、驚いた。徹底してファミリー客をもてなす態勢が整っていたのだ。特に敷地内に建てられた一軒家の託児所はそのまま「保育園」と名乗っても良さそうな内容。ぜひ我が子も体験を、と思っていたところ、この度、家族で泊まる機会を得た。 


レンタカーをパーキングに入れ、子供とメイン棟のレセプションへと進むと、日本人らしき人々の姿が。口コミで広まっているのか、この宿ではなぜか訪問の度、ロンドン在住の駐在員一家とおぼしきファミリーを見かける。日本人好みの細やかなサービスが、彼らの間で評判となっているのかもしれない。チェックインをすると東欧訛りの長身のレセプショニストに連れられ、客室へ。私たちが通されたのはいかにも英国的な、二階建てのセミデタッチド・ハウス(1軒を二つに縦割りにした家)の離れだった。ゲートも前庭もあり、親戚の家を借りているかのような錯覚に陥る。ここでなら元気いっぱいの子連れでも周囲への騒音を気にする必要はなさそうだ。 

玄関から中に入ると、1階が大人用の寝室兼リビング+トイレ、2階が子供用の寝室とバスルームという間取り。これにキッチンさえ加われば、「住宅」としても通用しそうだ。階段の上下にはベビーゲートが設置され、子供の事故を防止。子供用の寝室の引き出しをあけると絵本や「モノポリー」などのゲームがいくつか入っていて、小学生以上なら2階にこもって「子供だけの時間」が楽しめそうだ。 

敷地内には海賊船を模した遊具もあるが、このホテル一番のセールスポイントと言えば、前述の託児所「プレイゾーン」。さっそく訪れると、この日は保育士が3名に対して乳児一人、1~2歳の幼児が2名。ほぼ一対一の状態で、子供の興味に併せ、保育士は声掛けをしてプラレールやおままごとなど、いろいろな遊びにつきあっていた。 
保育園さながらの「プレイゾーン」。2階にはDVDミニシアターやPCも。(C) Marino Matsushima
我が家の4歳児はめざとく螺旋階段にびっしりと掛けられていたコスチュームに目をつけ、「雪の女王のドレス着たい~」と意思表示。先生は「ああ、エルザのドレスね」と言いながら着せてくれ、娘は上機嫌でおもちゃの海へと繰り出した。しばらくは一人でおままごとや音の出るベビー玩具に興味を示していたが、やがて奥のテーブルで粘土遊びが出来ることに気づき、「せんせい、ねんどやりたい」とアプローチ。先生が英語で応答するのにも構わず日本語で話しかけていたが、そのうち「これでは通じない」とわかり、「eyes, eyes」「nose, nose」と知っている単語を総動員し、粘土で顔のパーツ作りを教えてもらっていた。この調子でしばらく先生に相手をしてもらえば、日本人の子どもにとってはちょっとした英語レッスンになる。旅のはじめに子供が「英語に慣れる」場としても、利用する価値はかなり高そうだ。 

館内にはフォーマルとカジュアル、二つのレストランがある。子連れの場合はパブ風で気楽なカジュアル・レストランを選ぶファミリーが多いそうだが、我が家は今回、フォーマル・レストランに挑戦してみた。フォーマルと言ってもガラス張りの室内は開放感に満ち、オープン時間(ディナーは19時)に予約すればまだ太陽も残っているので、コッツウォルズのなだらかな丘陵地を見晴らすことができる。

テーブルサイドで切り分けられる地元のオーガニック・ビーフは驚くほどフレッシュ。
ベアルネーズ・ソースとの相性も抜群。 £23 (C) Marino Matsushima
子どものオーダーでもテーブルでスープをサーブしたりと、大人と同じ扱いなのが嬉しく、子供メニューの「ソーセージ&マッシュドポテト」も日本人の感覚からすれば、十分な大人サイズ。食いしん坊の娘は嬉々として一生懸命、まだ慣れないナイフと格闘していた。大人のほうは「二人以上で」と指定されていた「地元オーガニックビーフ」のステーキを注文。焼き上がった大きな肉はテーブルサイドで切り分けられ、野菜とともに出されたが、厚めにスライスされた肉は筆者がこれまでに食べたことがないほどフレッシュで、感動的でさえあった。 

食後、離れに戻るとゆっくりとバスタイム。バスルームにごろんと置かれた優雅な浴槽に入り、ベビーシャンプーとともに用意されていたスポンジ型のアルファベットで、しばし子どもと遊ぶ。「“パパ”はどうやって作る?」「DとAと…」「もう一個Dあったかな?」「あった~」。お風呂を出ると1階のダブルベッドに、一家三人、川の字になって潜り込んだ。 
美しく盛り付けられた朝食ビュッフェ。(C) Marino Matsushima
翌朝、昨夜と同じレストランに出かけると昨夜とは異なり、子供用にカラフルなプラスチック製の食器、カトラリーが用意されていた。朝は気楽に、といったところなのだろう。レストラン入口には自由にどうぞとばかりに、PCでダウンロードしたらしい塗り絵や色鉛筆が。ちょっとした待ち時間にも、子供たちが退屈しないための配慮がなされている。 

朝食はシリアルやヨーグルト、フルーツ、パンのビュッフェと、選択式の温かい料理。せっかくなのでイングリッシュ・ブレックファーストと行きたいところだが、前夜のディナーがボリューム満点だったため、我が家は大人がオムレツ、スモークサーモン、子供はパンケーキを注文した。パンケーキは薄手のクレープ状で、ビュッフェも楽しむことを考えれば、子供にはほどよい量だ。 
食後、ちょうど「子ども入場可」の時間となったのでスパのプールへと向かう。誰もいなかった温水プールには次々と家族連れが現れ、備え付けの魚の形をしたビート版を手に、水遊びを楽しみ始めた。我が子も日本から持参した浮き輪を使って水に入ったり、ビート版につかまってみたり。こんなふうに「子ども入場可」の時間が限定されていることで、ファミリー層も、静寂を楽しみたい他のゲストも互いに気兼ねが要らないのがいい。この屋内プールのほか、屋外プールやレンタサイクルもあり、近くの乗馬センターとの提携もしているので、親子での思い出づくりも様々に可能だ。
腹ごなしもできたところで、ゆっくりと荷造りをし、チェックアウト。レセプションでは子供にミネラルウォーターのペットボトルと板チョコの入った「お土産バッグ」のプレゼントが。最後まで子供の心をつかむ、心憎い宿なのだった。

2015年2月6日金曜日

Today's Report [travel] 日本の「船旅」のイメージを変え始めた、アメリカ発の「手に届く」クルーズ

先週(1月29日)、リッツカールトン東京ホテルで行われた「プリンセス・クルーズ50周年記念パーティー」に招かれた。1965年にメキシカン・リビエラクルーズ始まり、現在では18隻の客船が世界各地を巡っている、世界三大クルーズ会社の一つだ。(本社は米国カリフォルニア州)。日本発着路線は2013年にスタート、今年が3年目。新顔ではあるが、既に数万人を集客しているという。 

プリンセス・クルーズ「内側」の客室。
人気の秘密はクルーズそのものの充実度に加え、その「手に届く」価格設定にある。ラグジュア リーなスイートクラスももちろん設定されているが、「内側」の客室は一人一泊1万円台から。2015年のコースを例にとれば、「神戸、鹿児島、横浜と釜山5泊6日」は最高級のグランドスイートが407000 円だが、最安の部屋 なら69000 円(諸税、チップ別)。船内では食事も付き、ショーなどのエンタテインメント代金も含まれる(アルコールや一部飲食代、一部のカルチャー教室などは別料金)ので、ともすれば陸や空の旅よりも割安かもしれない。 

50周年記念パーティーで出された記念メニュー。50年間のクルーズの歴史を、船内で提供した各年代の人気料理とともに振り返るというコンセプトで、例えば前菜のテリーヌはクラシカルなメニューで、60年代に人気だったという。個人的には口直しの「ブルーベリー・モヒート・ソルベ レモンの砂糖漬け添え」が色彩的にも酸味の点でも好み。
日本では既存のクルーズの影響で船旅=高価と思われがちだが、プリンセス・クルーズとしてはそんなイメージを打破し、「船旅にもいろいろなスタイルがある」ことをアピールしていきたいのだそうだ。 

パーティーではゲストの真矢みきさんのトークショー、アジア地区オペレーション担当シニア・ヴァイス・プレジデント、アンソニー・H・カウフマン氏によるシャンパンタワーも。 
客船の旅といえば筆者は北欧のクルーズ「フッティルーテン」を体験取材したことがあるが、海上独特の浮遊感、国王夫妻の肖像画を中心にすっきりした中にもラグジュアリーなインテリアもさることながら、潮風を顔に受けながらのデッキからの眺めは格別だった。夜には漆黒の中に星空が浮かび上がり、早朝にはどこまでも続く水平線上に太陽がそっと顔を出す。そして遠くに現れ、次第に近づく「陸」…。


陸の旅とも空の旅とも異なる「船旅」が手ごろな価格で体験できることがより周知されれば、今後、日本人の旅の選択肢もさらに広がってゆくかもしれない。

2015年1月7日水曜日

Theatre Essay 観劇雑感「母子の愛を巡る葛藤劇」(2015.1.2 明治座『春日局』)

 
『春日局』(2015年1月2日~23日・明治座)写真提供:明治座
年末から年始にかけ、2本の芝居で同じ役者を観た。アメリカの現代劇『スワン』(紀伊國屋ホール、14年12月23日の千秋楽公演)と時代劇『春日局』(明治座、15年1月2日の初日公演)に主演していた、一路真輝だ。(後者では座長ではないものの、物語の中心となる二人の母のうちの一人の役なので、実質的にはW主役)。古典の演目が多い歌舞伎であれば稽古は三日ということもよくあるが、それ以外のジャンルで10日にも満たないインターバルというのは珍しい。どちらも尋常でない台詞量と動きを細やかに身体に沁みこませ、『春日局』では初日から、高貴な中にもしみじみとした情感さえ漂わせていた一路に、まずは感嘆させられる。

今回の舞台は、橋田壽賀子が89年のNHK大河ドラマで手掛けた『春日局』の舞台版。戦乱の時代をようやく生き延び、それぞれに辛酸をなめてきた「ふく(高島礼子)」と「江与(一路真輝)」が、かたや将軍の嫡男竹千代(=徳川家光)の乳母(後の春日局)、かたや自分の手で彼を育てることを禁じられた生母として葛藤し、年月を経て和解してゆく様を描く。“ふくVS江与”のドラマはこれまでにも何度も小説や映像、演劇で取り上げられてきたが、本作でのそれは対等な“女二人のバトル”ではなく、ふくはあくまでも使用人で弱い立場。そんな彼女が家康からの「天下の和平を保てる人材を育てて欲しい」との言葉を支えに、誠心誠意、竹千代に尽くすことで状況が変わってゆく様を見せる。高島礼子がこのふく役をけなげに、つつましく演じ、そのきれいな所作もあいまって好感を抱かずにはいられない。いっぽう男優陣では家光役の金子昇が力強く、口跡明瞭。遊女に恋する場面での“若さゆえの向こう見ず”な風情もいい。
『春日局』写真提供:明治座
3時間超の芝居で浮かんでくるポイントの一つが、江与とふくの不毛な対立の元凶ともいえる、男たちの“言葉足らず”だ。江与は嫡男である竹千代を自ら育てることを禁じられるが、その理由について夫・秀忠は「(父である)家康がそう定めたから」と、納得のゆく説明をしない。家康ほどの立場にもなれば一つ一つの決め事に説明は不要だったのかもしれないが、母親の側からすれば無条件に受け入れられる話ではなく、乳母となったふくへの憎悪が生まれるのも致し方ないように見える。

さらに後年、江与が自らの手で育てた次男の国千代が優秀な子に育ち、この子こそが世継ぎになるのではという噂が広まると、家康は隠居先から上京し、「あくまで竹千代が跡継ぎ」と宣言して再び江与を打ちのめす。

その理由として家康は「戦国の世なら家のためには優秀な世継ぎが必要だったが、平和な世となったからには“秩序”が第一」と語るのだが、国千代誕生の頃にこの話がなされていれば、江与も次男に過度な期待はしなかっただろう。こんな経緯が家族にわだかまりを残さぬはずもなく、江与とふくの“母”世代は和解に至るものの、子への影響は深刻だった。史実ではこの後、国千代長じて忠長は行動に問題ありとされ、兄の命によって自刃させられてしまうのだ。(劇中では描かれないが、秀忠が「国のためなら国千代を処分することも厭うな」と家光に言い置く台詞でそれを匂わせる)。家族の間であっても、いや家族だからこそ、言葉を尽くして理屈を通しておかねば遺恨が生じ、それは思いがけない悲劇を引き起こしかねない。それは時代、身分を問わずどの血縁関係にも該当するものなのだろう。家族のかかわりを描き続けてきた橋田ならではの、本作は示唆に富むドラマでもある。

 

2015年1月3日土曜日

Today's Report [travel] 御茶ノ水の高級ホテルが提供する“ワンコイン朝食”

先日、昨年七月末に取材したホテルを再訪する機会があった。この『龍名館お茶の水本店』は明治32年(1899年)、『龍名館本店』として創業。御茶ノ水駅徒歩3分という至便性と趣ある和風のつくりで、日本画家の伊東深水ら、文化人たちにも愛されてきたホテルだという。それが和風モダンの高級ホテルとしてリニューアルし、一階には全てのメニューにお茶を使った“お茶尽くし”レストラン「Green Tea Restaurant 1899 Ochanomizu,」を併設。オープン直前のお披露目の様子は、日経トレンディネットでレポートした。

その取材の折、レストランでは店の自慢料理の中から数種を少しずつ試食することができ、それらも印象的ではあったのだけれど、配布資料に掲載されていた朝食の内容に驚かされた。食材にもプレゼンテーションにもこだわったお茶漬けが500円、ワンコインだというのだ。ファストフード・チェーンならばまだしも、都心の高級ホテルで朝食が500円というのはちょっと聞いたことが無い。スタッフに話を訊くと、ホテルとしては地域や日本茶文化への貢献も意識しており、オフィス街でもある御茶ノ水の人々、特に若いサラリーマンたちに気軽に試し、お茶に親しんでほしいのだという。 
 
そうは言ってもこの価格で、店はずっと朝食サービスを続けていくのだろうか。4か月後の11月末、プライベートで朝食サービスの終わる11時前に店を訪ねると、ワンコインお茶漬けは依然、健在だった。(15年1月3日時点、レストランのHPでも価格、内容は同じ。) 

メインの具は8種類の中から選ぶシステムで、筆者は紀州南高梅、家族は鮭をチョイス。間もなく運ばれてきたお盆の上には、茶飯を入れた深めの茶碗、ほうじ茶とお出しをブレンドした出汁の急須、あられやわさびなどのトッピングを乗せた細い皿とメインの具の小皿。ふくよかな実をざっくり崩した梅干し、出汁とも主張しすぎない柔らかな風味が好ましく、よく吟味されていることが分かる。茶飯の量も多すぎず少なすぎずで、色味の鮮やかなトッピングも楽しい。家族の頼んだ鮭のほうは予想よりもしっかりとした量が盛られていて、より「おかず」的に食べられる。ヘルシー志向の外国人旅行者にも勧めたい「ジャパニーズ・ブレックファースト」だ。 
朝食メニューとしてこの店が出しているもう一品の「アサイーボウル」(850円)もオーダーしてみた。ねっとりとした食感のアサイーは自然な甘味が生きているが、フローズン・ヨーグルト並みに冷たく、なかなか一度には口に運べないのもあってかなりボリューミーに感じる。夏季ならばぺろりとたいらげられそうだが、それ以外の季節は何人かでデザート的にシェアするのがいいかもしれない。 

この日は週末ということもあってか、朝食タイムの店内はゆったり。だが、ランチタイムに差し掛かると俄かに来店客が増え始めた。ほぼ全員が女性だ。彼女たちももう少し早く来店し、このお茶漬けを体験してみれば、朝食の習慣が変わるかもしれない。出来うる限り長い間、続けて欲しいメニューである。

2014年12月31日水曜日

Theatre Essay 観劇雑感 2014年、演劇この2本(+α)


2014年ももうわずか。以前にも(2012年)こんな大晦日があった気がするが、このまま書き留め忘れて年を越すわけにはいかない「2014年、演劇この2本」(と+α)を記しておきたい。 

『海をゆく者』(12月、パルコ劇場) 

『海をゆく者』撮影:阿部章仁 写真提供:パルコ劇場
 今年最も見ごたえがあった演劇といえば、パルコ劇場の『海をゆく者』(コナー・マクファーソン作、栗山民也・演出)。クリスマス・イブの日、ダブリン郊外のとある住宅で集まったダメおやじたちがポーカーを始めるが、実はそれは、暗い過去を持つ主人公シャーキーと「紳士」を装った悪魔の、魂を賭けたゲームでもあった…。 

現代劇にアイルランド民話を織り込んだ戯曲は伏線の張り巡らせ方が緻密で、スリリングなゲームから絶体絶命の状況、そしてどんでん返しまで、観客を心地よくジェットコースターに乗せてゆく。またゲーム直前、ゲーム中に、紳士の正体を知らない他のメンバーたちが呑気に動き回るなか、シャーキーと悪魔が舞台両端に位置し、にらみ合う構図が終始流れてゆく芝居のアクセントとなり、印象深い。 
『海をゆく者』撮影:阿部章仁 写真提供:パルコ劇場
が、第一の見どころは何と言っても出演者、平田満(シャーキー)、吉田鋼太郎(リチャード)、浅野和之(アイヴァン)、大谷亮介(ニッキー)、小日向文世(ミスター・ロックハート=悪魔)の円熟の演技だ。よく喋る、それも勢いよく丸みのあるダブリン訛りで喋るダメおやじたちの雰囲気を、日本語においても違和感なく醸し出しつつ、緊迫と笑いが目まぐるしく入れ替わる芝居をテンポよく展開。特にシャーキーの盲目の兄で、終始がなりっぱなしのリチャードを驚異的な強い喉で演じる吉田が圧巻だ。“ダメ男”もここまで来ればすがすがしく(?)も見えてしまうが、その彼が、弟への愛情溢れる台詞を次々と繰り出す終盤は感動的。09年の初演時から5年、さらにこなれた芝居で観客を引き込む彼らを観ていると、純粋に「役者」というものが魅力的な仕事に見えてくる。 

悪魔と人間との“賭け”は思いがけない形で終わり、芝居はじんわりとした“生”の実感とともに終わる。クリスマスの朝、舞台に差し込む白い光。実際のところ、冬のアイルランドはそう眩くはならないけれど、それは舞台上で一人、それを見つめる登場人物、そして観客の心に見える“希望”でもある。“芝居ならではの演出”が、いい。
(15年1月に金沢、豊橋、大阪、仙台、広島、福岡を巡演。)

 

『イット・ランズ・イン・ザ・ファミリー ~パパと呼ばないで』(9月、パルコ劇場) 

俳優たちにインタビューしていると、ほぼ皆さん口をそろえて「コメディは難しい」という。「コメディに比べたら、悲劇のほうがずっと楽」とも。実際、コメディを観ていて「なるほど」と感じてしまう残念な舞台もないわけではないけれど、そんななかで久々に「巧い!」と思わせてくれたのがこの舞台。重要なスピーチの直前に突然昔の恋人と、彼女との間に出来たという息子に訪ねてこられたエリート医師の顛末を描く、レイ・クーニーの戯曲だ。 

日本では今回が3つ目のプロダクションとなるが、筆者の中では今回がベストかも?と思えたほど、テンポ、「間合い」が絶妙。場を取り繕うために次々と嘘をつき、さらに窮地にはまってゆく主人公役・錦織一清が、軽やかに繰り出す台詞と嫌みのない強引さで芝居をリードすれば、周囲の役者たちもそれに呼応し、体を張ったギャグをタイミングよく差し挟む。特に初演から“ヘンな患者”役を演じている綾田俊樹は、まるでナンセンス漫画のように何度も車椅子ごと飛ばされるキャラクターを飄々と怪演。主人公の妻役、瀬戸カトリーヌもミドル・クラス特有のとっぽい感じと意外なしたたかさを、ほどよく見せている。“悲哀漂う中年サラリーマン”を演じたら当代一の役者(と筆者が思っている)ラッパ屋の俵木藤汰は、今回は威厳のある医師の上司役で、舞台にそこはかとないおかしさを加味。 

大騒動の果てに、意外なおまけを生みながらも、芝居は収まるべきところへとおさまってゆく。思い切り賑やかな騒動から美しい収束までを、隙なくまとめあげた演出は山田和也によるもの。最近はミュージカル・コメディ『ファースト・デート』でもともすると平板に見えてしまうストーリーを軽妙に立体化させていたが、今やこの人、最も“信頼できる”コメディの演出家と言えるかもしれない。
 
***** 

他にも…
 
とある殺人事件をきっかけに、現代と縄文時代がリンクしてゆくカムカム・ミニキーナの『G海峡』(11月、座・高円寺)は、文明批判を絡めたダイナミックな物語。身体表現を多用した意欲的なステージングと、武田航平、夕輝壽太ら若手の客演俳優をはじめ、役者たちの気迫漲る演技に引き込まれる。 

不可解な殺人の取り調べの模様を描く『Being at home with Claude クロードと一緒に』(5月、青山円形劇場)では、長い長い告白を魂をむき出しにして語る男娼役、稲葉友が鮮烈。その激情を受け止める刑事役、伊達暁もいぶし銀の存在感を見せていた。(15年4月にシアタートラムにて再演予定)。 

もう一つ、ワークショップ的な側面も持つ舞台として興味深かったのが『渋谷金王丸伝説~カブキ国への誘い』(8月、渋谷区文化総合センター大和田)。市川染五郎の演出で、金王丸(染五郎)と(フジテレビKIDSが共催のため)ガチャピン、ムックら仲間たちの修業の旅に、クイズやミニ知識、盆踊りコーナーなどを盛り込み、親子連れを中心とした初心者を歌舞伎の世界にいざなった。染五郎や猿弥らのおおらかな芝居や舞踊家の尾上菊之丞、尾上京らの美しい所作が楽しめるだけでなく、音楽、ヴィジュアルともにポップな現代風アレンジを施し、ストーリーにはオンラインゲーム風の設定も登場。歌舞伎本来の「傾(かぶ)いた」スピリットを感じさせた。舞台鑑賞後に別の階でできる「伝統芸能体験」には義太夫、太鼓などがあり、親子で「日本舞踊体験」に参加したところ、一人ずつ帯を締めてもらいお辞儀の仕方から歩き方、着物の各部の名称、扇子の持ち方、そして簡単な踊りまで30分ほど、みっちり伝授。伝統芸能関係者たちの“伝承”への熱意も痛いほどに伝わってきた。


さて、15年はどんな舞台と出会えるだろうか。