2011年12月2日金曜日

Today's Report [Theatre 番外編] 劇場ちらしの誘惑、2011-2012冬。

 劇場に行くと、入場時に近々の公演ちらしの束を渡される。
 開演前に席につき、この束を一枚一枚捲っては、この演目、あの顔合わせに思いを巡らせるのが、演劇ファンの愉しみの一つだ。
 ただ、長年(思えば幼稚園の頃から)芝居に関わっていたりもすると、最近は劇作家と演出家と主演俳優の名前を見ただけでだいたいどんな舞台か想像できてしまい、そうそう「どきどきわくわく」することもないのだが…、1110日、渋谷パルコ劇場(演目は井上芳雄ら出演の『Triangle vol.2』)で渡されたちらし束40枚弱は、珍しく次々にそんなときめきを提供してくれた。この冬、観たい演目の忘備録という意味合いもあって、記しておきたい。

*唐十郎×蜷川幸雄×宮沢りえ、藤原竜也、西島隆弘(AAA)。『下谷万年町物語』(20121Bunkamuraシアターコクーン)
 最も目を引くちらしだ。
 太い筆書きのタイトル。黒地に赤い蝶たちが舞い、中央に男装の宮沢、藤原、西島隆弘の扮装写真。「昭和21年からオカマたちでにぎわい、電蓄から鳴るタンゴの曲で、ハエがとび交う町でした」というキャッチコピー…。唐作品のインパクトの強さが、そのままに表現されている。出演者の中に新宿梁山泊の演出家で、以前NHKのドラマで役者としても魅力的だった金守珍の名がある点でも惹かれる舞台だ。

*野田秀樹×宮沢りえ、池田成志、近藤良平。『The Bee 日本人キャスト版』(20124月東京・水天宮ピット大スタジオ、5月大阪、6月北九州、松本、静岡)
 NHK大河ドラマ『江』で主人公の姉、茶々を演じていた宮沢。正直なところドラマには一年を通して感情移入できなかったが、彼女の演技には目を見はった。過酷な運命に翻弄されつつ自分の芯を見失わずに生きた茶々を、腹からのしっかりとした発声で体現。玉三郎主演舞台から野田秀樹の芝居まで、これまでの様々な舞台経験が見事に生きている、と感じさせた。その彼女が『下谷万年町物語』、本作と再び舞台づいている。コンドルズの近藤良平も面白いことをしてくれそうだ。23月には東京で英国人バージョンの上演もあり、野田さん(昔、担当編集者としてお世話になっていたので親しみをこめて「野田さん」)は演出のみならず、両バージョンに出演もする。

*フランク・ワイルドボーン×濱田めぐみ、田代万里生。『ミュージカルBonnie&Clyde俺たちに明日は無い』(20121月青山劇場)
 日本発の見応えある新作ミュージカル『MITSUKO』で手堅い作曲を披露したワイルドボーンの最新作を、劇団四季を退団した濱田と、『マルグリット』で彗星のように現れた逸材、田代が演じる。濱田は『ライオンキング』のナラ、『アイーダ』のタイトルロール、『ウィキッド』のエルファバと、中声域でパワフルな歌唱力を求められるヒロインを次々にものにしてきた稀有な女優。いっぽう田代は安定感のあるテノールで、一見王子様系のルックスながら『マルグリット』では骨太なオーラを発していた。この二人が、今回はジャズ風味たっぷりというワイルドボーンの曲をどう歌いこなすだろう。

*井上ひさし×長塚圭史×北村有起哉。こまつ座『十一ぴきのネコ』(20121月紀伊國屋サザンシアター)
 キャッチコピーに「子どもとその付添いのためのミュージカル」とある。井上が執筆時に掲げた言葉だろうか。井上ひさしのミュージカル、というと、筆者には子どもの頃に出演した『真夏の夜の夢』が思い出深い。井上が或る児童劇団のために書き下ろしたミュージカルで、現実の中にシェイクスピア作品を入れ子にし、ひねりを加えた冒険物語。台詞は簡明ながら一つ一つが生き生きとして、歌詞も歌っていて面白く、子どもごころにとても楽しかった。本作はその彼が書いた「子どものためのミュージカル」というので、我が子の観劇デビューにどうかな?と思いながらちらしをよく見たところ、対象は小学生以上。1歳の娘にはまだ早かった。…が、キャストに北村有起哉、ラッパ屋の木村靖次、新感線の粟根まことら。演出家に長塚、と個性派の名前が連なっていて、とうてい「無難な舞台」には収まりそうもない。今回は「付添い」だけで観に行くか。

*佐藤健×石原さとみ×ジョナサン・マンビィ『ロミオ&ジュリエット』(20125月赤坂ACTシアター、大阪イオン化粧品シアターBRAVA!
 「旬」の若手俳優が体当たりで演じると、得難いきらめきを放つ『ロミ・ジュリ』。今回はブラウン管での活躍めざましい佐藤健が、初舞台でこの演目に挑戦する。ジュリエットに石原さとみ、そのほかの共演陣も橋本さとし、長谷川初範、石野真子、キムラ緑子と「観てみたい」キャストだし、なによりロンドンで刺激的な舞台を発信し続けるドンマー・ウェアハウス出身の若手演出家、ジョナサン・マンビィが本作で日本初進出というのが興味をそそる。日英の若い才能が互いに遠慮なく、この「初挑戦」で火花を散らしてほしい。

  他にも、
 文学的な、奥行きのある作品で真価を発揮するダンサー首藤康之が、「鶴の恩返し」をモチーフとした新作に挑む日英共同制作のバレエ『鶴』(20123KAAT横浜芸術劇場ホール)。
 田代万里夫と、Triangle vol.2』で芸達者なところを見せていた新納慎也が出演、今年9月の初演が大入りだったという『スリル・ミー』の再演(20123月アトリエフォンテーヌ)。
 宝塚退団後初舞台の『ロコへのバラード』で颯爽と女優デビューを果たした彩吹真央が、ユースケ・サンタマリアほか曲者揃いのキャストに紅一点加わる『モンティ・パイソンのスパマロット』(20121月赤坂ACTシアター)。
 ベルギー、英国など数か国が制作にかかわり、森山未來や書道家の鈴木稲水、中国・少林寺の武僧ら多彩な出演者を、ダンス界の寵児シディ・ラルビ・シェルカウイが束ね、手塚治虫をダンスで表現する『テヅカ』(2012年2Bunkamuraオーチャードホール)などなど、束をめくっていて「おっ」と手を止めさせるちらし、多数。このうち何本観られるだろう。他にもあちこちから情報が舞い込んでくるだろうし…。乳児のいる身としては、スケジュールのやりくりが悩ましい冬となりそうだ。

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