『おたふく物語』9月25日まで明治座、10月5~27日=博多座で上演 写真提供:明治座 |
おっちょこちょいで、容姿にコンプレックスがあり、自分を「おたふく」と決めつけている。けれども心は清らかで、周囲の人々に愛されずにはいられない。そんな女主人公、おしずの恋を描いた山本周五郎原作の時代劇『おたふく物語』が、明治座で上演されている。
主演は藤山直美。一つ一つの所作が美しいうえに、ちょっとした間合いや「おまけの仕草」で笑いを誘い、確かな台詞術で涙を誘う。今、こうした人情時代劇を最も“任せられる”女優だ。
『おたふく物語』写真提供:明治座 |
圧巻なのが、1幕の終盤。彼女の内面の美しさを買っている知人(音無美紀子)から持ち込まれた縁談の相手は、なんと偶然にも、おしずが長年密かに憧れていた彫金師の貞二郎(錦織一清)。「罰が当たります」と戸惑いながらも見合いに出かけ、貞二郎から「子供の頃はどんな人だったのかな」と問われるままに、金をだまし取られても相手を信じて待ち続けたという“間抜けな”出来事を語る。たった数分間の“物語り”だが、無心の語りにはおしずの純真さが溢れ出て涙を誘う。聴いていた貞二郎が結婚を即決するのも頷け、この女優の凄みを感じさせる場面となっている。貞二郎役の錦織はすっきりとした男ぶり、二幕で彼の誤解と解こうと懸命におしずの秘密を語る妹・おたか役の田中美佐子に清潔感。
初日終演後、石井ふく子の誕生日を皆で祝福。写真提供:明治座 |
初日のこの日は、偶然にも演出家、石井ふく子の誕生日。終演後、錦織のエスコートで舞台に登場した石井に藤山は「今、先生は笑っていらっしゃいますけど、お稽古場と全然違う顔…」と笑わせ、石井は「90歳なので、19歳になりました。これからも皆さんと一緒に、こういう時代だからこそ、心温まる芝居を作っていきたい」とコメント。その思いに違わない、“心の通う相手”“家族”がいることの素敵さ、有難さをゆったり、しみじみと感じさせる舞台となっている。
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