2011.2.24 ボローニャ歌劇場「カルメン」演出、アンドレイ・ジャガルス単独インタビュー(於・ラトヴィア大使館)
アンドレイ・ジャガルス photo by Marino Matsushima |
ジャガルス演出による『カルメン』 Photo by K.Miura ボローニャ歌劇場 日本公演『カルメン』 9月10日=滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール、9月13,16、19日=東京文化会館 (追記:ドン・ホセ役にキャスティングされていたヨナス・カウフマンが手術のため降板。代わりにマルセロ・アルバレスの出演が決まった。詳細はhttp://www.bologna.jp/。) |
数あるオペラ演目の中でも屈指の人気を誇る「カルメン」。
作者はフランス人(原作はメリメ、作曲はビゼー)だが設定、主人公のキャラクターともに強烈なスペイン色に彩られ、これ以外の設定演出はきわめて難しいとされている。
その「カルメン」をキューバのタバコ工場の物語に見事置き換え、世界的な話題を集めたのがこの人、ジャガルス。バルト三国の一つ、ラトヴィア国立歌劇場の総支配人にして演出家だ。
いったい、なぜ「キューバ」なのか。
「91年にソ連が崩壊、ラトヴィアが独立してから、私はヨーロッパ、スカンジナビアからアメリカ大陸へと方々を旅して廻ったのですが、その中にキューバがありました。首都ハバナを訪れると、人々の貧困は一目瞭然でしたが、同時に社会主義体制下、彼らが自由への渇望を胸に秘めていることが、少し前まで同じ感情を持っていた私には痛いほど伝わってきて、非常に印象的でした。
カルメンは「自由」を求める女性です。けれど今までのオペラ演出では、それは恋愛における「自由」を指し、彼女はこの男性、あの男性と自由に恋をして身を滅ぼしていました。これは「自由」のほんの一つのレベルでしかなく、私にはあまり興味深く思えません。
しかしキューバという設定を借りれば、もしかするともっと根本的な意味での「自由」への希求をテーマとした、新たな『カルメン』が描けるのではないか…私はそう、思ったのです」
こうしてヒロインは、しがない工場勤めから脱し、自由に生きようとする勇気ある女、ドン・ホセは体制に疑問を持つことなく育った保守的な役人、闘牛士エスカミーリョは花形ボクサーへと変換。音楽的なリサーチを重ねるなかで、カルメンのテーマ曲「ハバネラ」がキューバ音楽と同じルーツを持つことも分かり、確信を持って「キューバ版カルメン」を仕上げたという。
ラトヴィアでの舞台を収録した映像を見ると、主演歌手たちの迫真の演技のみならず、彼らの「背景」になることなく生き生きとステージに立つコーラスたちの姿が印象的だ。
「私自身、もともと舞台役者で演劇畑の出身なので、舞台が「がらんどうの空間」になることが嫌なのです。たとえ端役といえど、舞台に上がっている人々にはそれぞれきっちり、リアルな人生を演じてもらっています」
この演出は今秋、ボローニャ歌劇場の来日公演で観ることができる。出演者、スタッフともにジャガルス以外は主にイタリア人となるが、ラトヴィア・オペラ版に引けを取らぬ完成度に自信を持っているという。
「ボローニャでは既に昨年、このプロダクションを上演しましたが、イタリアに移住してきたキューバ人が10人参加しています。今回、日本の観客にはよりキューバの香りを楽しんでいただけるのではないでしょうか」
現在、52歳。本国ではさぞや二枚目俳優として鳴らしただろう、さっそうとした長身と明瞭な発声の持ち主だ。ラトヴィア歌劇場総支配人の座に既に15年間就き、インタビューのちょっとした合間にも書類に目を通したり、スタッフからメッセージを受け取ったりと、一分一秒も無駄にせずフル回転。いっぽうでは「今後もっと海外での演出にも挑戦していきたい」とアーティスティックな意欲も見せる。
人口230万の国ラトヴィアから、ヴァイオリニストのギドン・クレーメル、歌姫エリナ・ガランチャに続く、熱い音楽家の本邦初御目見得である。
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